「木霊の詩」   粗筋         5-1  5-2          10e
木霊の詩 5-1

私の家のリビングには、不思議な木がある。
前の住人が残していった、大切な木だという。
高さ1メートル半ほどのその木は私と二人の息子に安らぎと癒しをくれる、私達家族にとっても大切な木になっている。



第五夜 その1


朝になっても、中村智は消えなかった。
私は朝食の片づけをした後、トモくんの言っていた地名をネットで検索してみた。
似たような地名はいくつかあるけれど、これだ!という決め手が無い。学校名に関しては同じものさえ無いのだ。無論、漢字、平仮名、読み方などなど、いろいろ変えて調べてみたけれど、合致するものは無かった。かと言って、数多ある小学校の歴史を調べて、最近改名した学校をピックアップするだけでも時間が掛かりすぎる。改名をネット公開していない場合も考えられて・・・・・・・・
キリが無い。

一方のトモくんは、大と陸と3人で楽しく遊んでいる。コンピューターゲームを初めてやったとかで、大興奮していた。
我が家は私がゲーム好きなこともあって、他の家庭の平均に比べると、かなり多くのゲーム機とそのソフトがあるらしいのだ。
それは余談として、トモくんが寂しがらずに息子達と仲良くやってくれていることが嬉しい。
―――強い子だな、トモくん・・・

折角の休日なのに、朝から小雨だった空が昼過ぎから大雨に変わっていた。
「折角外に食べに行こうかと思ってたのにな・・・」
ココアをあれだけ喜んでくれたトモくんのことだ。服も、ワイシャツに紺色の半ズボンという昔の小学校の制服みたいな格好だし、多分、都会とは言えないような場所に住んでいるのだろうから、外を少し案内してあげたいと思っていたのだ。まあ、ここも古都と言われる土地であるからそれほど都会ではないだろうけれど。

ゲームばかりで飽きてしまわないかと思っていると、いつの間にかアニメのDVDを見ていた。昼はDVDを見ながら食べられるようにと、サンドイッチを出してあげると、
「これ、初めて食った!」
と、これも喜んでくれた。
もしこのまま家が見つからなければ警察なり児童相談所なりに通報しなくてはならない。そうなったらトモくんは一時的にでも施設に入れられる。だったら、ウチの息子達とも仲が良いし、この家で預かることはできないだろうか?
本当なら4人の子どもが在るはずだった私。子どもは大好きだ。

そんなことを考えていると、
「ママ」
大がキッチンに来た。
「おにぎり、みんなの分、作ってくれないかな?」
「おにぎり? お腹空いたの?」
サンドイッチを食べたばかりだが、パンではお腹に溜まらなかったのか?
「ううん。そうじゃなくって、トモくんが行くところがあるのを思い出したから、今から行くって」
「今から?」
今から遠くへ行こうとすれば、着く頃には夜になってしまう。
「うん、だからさ。トモくん一人で行かせられないから皆で行こうよ」
―――何か思い出して今から行きたい
何か訳があるのかもしれない。
「分かった。急いで作るから、あんた達も出掛ける用意をしなさい。あ、でも陸はまだ小さいからお隣にお願いして・・・」
「イヤだよ! ボクも行く!」
涙目で陸が私に訴えてきた。こうなると大泣きすることになるだろう。
「わかった。疲れても我侭言わないって約束できる?」
「うん、約束する」
そんなこんなで4人分のおにぎりを作り、買い置きのペットボトルのお茶を4本、大きな旅行鞄に詰めた。
「なあ、みんな、早く早く! 道が閉じようとしてる」
―――道が閉じようとしている?
見るとあの木の前に、大きなぼんやりとした空間が口を開けていた。
急いで新聞紙を敷いて玄関から傘と靴を持って来る。家の鍵は掛かっているし、ガスも火も使っていない。
よし!
考えているヒマはなかった。
トモくんを筆頭に、4人でその空間に飛び込んだ。
「うわ〜〜〜〜〜〜」
目を瞑っていても目が回るような感覚に、私達4人は必死で繋いだ手を離すまいとしていた。